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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)272号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二右事実によれば、控訴人は、宮太郎及びその相続人である被控訴人らに対し、右売買契約に基づく農地法五条の許可申請協力請求権を有していたものであるところ、被控訴人らは、右請求権は売買成立の日から一〇年を経過した昭和五〇年六月一七日に時効により消滅したとして、その消滅時効を援用するので、以下、他の論点に先立ち、右消滅時効の援用が許されるか否かについて判断する。

<証拠>を総合すると、控訴人は、本件土地について前記のような将来の利用計画を持つていたので、それまでは宮太郎との友誼関係から同人に無償で耕作することを許したが、その際、後日の紛争予防の目的で、同人から「右耕作についてはその都度控訴人の許可、指示に従い、控訴人が必要とするときは、いつでも埋立、作物の取払い等をされても異議はないこと並びに本件土地につき第三者に権利の譲渡又は担保権の設定をするなどの行為をせず、本登記手続に関しても控訴人に迷惑をかけないことを誓約する」旨の念書(乙第五号証の一)を徴するとともに、控訴人からも「本件土地の本登記までの地租、水利費用等は控訴人の責任において支払いをし、宮太郎に迷惑をかけないことを誓約する」旨の念書(乙第五号証の二)を宮太郎に差し入れたこと、右宮太郎の念書には、同人の農業後継者である被控訴人三三男も記名押印し、右売買の件を了承したこと、その後宮太郎が死亡し、被控訴人三三男が本件土地の耕作を行うようになつてから、右耕作につき控訴人に許可を受けにこなかつたので、昭和四四年四月二七日ころ、控訴人は同被控訴人に対し、耕作期間を同年五月一日から同年一二月一五日までとした土地耕作承認依頼書(乙第四号証)の提出を求め、右期間中であつても控訴人の都合により埋立等をしても異議がない旨を約束させたこと、本件土地の固定資産税及び水利費用等については、控訴人又はその妻が宮太郎又は被控訴人三三男方に対し控訴人の負担額を計算してくれるよう申出をしていたが、宮太郎側で本件土地を無償で耕作していたことなどもあつてうやむやに推移し、耕作をやめた後も、控訴人の妻が時折右同趣旨の申出をしていたものの、結局精算は行われなかつたこと、昭和四五年ごろ被控訴人三三男から控訴人に対し、敷地の土留費用に充てるため、前記売買残代金二〇万円の一部を支払つてもらいたい旨請求したことがあること、昭和五四年一一月ころ、大宮市が本件土地の付近で下水道工事を施行することになり、本件土地を右工事用資材の搬入路として借り上げるため、共和コンサルタント株式会社を通じて、同土地の所有関係を被控訴人三三男方に問い合わせたところ、同被控訴人の妻から所有者は控訴人である旨の返事があつたので同年一二月五日、控訴人との間において、本件土地の一部一三一三平方メートルにつき、工事用資材搬入路として使用する目的で期間を昭和五五年四月三〇日までとする賃貸借契約を締結し、右期間中本件土地を工事のために使用したが、近くに居住する被控訴人三三男方からはこの土地使用に対して何ら異議や苦情が述べられなかつたこと、本訴提起前ころ、控訴人が被控訴人三三男に本件土地の固定資産税等を支払いたい旨申し出た際、同被控訴人の妻が殺虫剤の空中散布費用について本件土地の分担分もある旨伝えていること、控訴人は、本訴提起当時まだ前記瀧野川信用金庫を定年退職していなかつたことなどの各事実が認められ、<証拠>中右認定に副わない部分は採用しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。なお、被控訴人三三男以外の被控訴人らが本件土地について控訴人と直接かかわりを持つた形跡はないが、弁論の全趣旨に徴すると、右に認定した被控訴人三三男方の言動がその余の被控訴人らの意思に反するものであつたことは認められない。

以上の認定事実によれば、本件土地については、転用を目的として売買が行われたものの、控訴人が瀧野川信用金庫を定年退職するころまでは、農地法五条の許可を受ける必要が実際上なかつたものであり、このことは宮太郎ないし被控訴人側においても知つていたところであると認められるうえ、昭和四五年には本件土地の市街化調整区域への編入によつて、当分の間は右許可の申請をしても許可を受けることが難しい情勢となつたのであり、また、控訴人と被控訴人側との間においては、売買後一貫して控訴人が買主であることが明らかであるとされていたことなどを考えると、控訴人が右売買につきこれまで農地法五条の許可申請手続をとることを差し控え、被控訴人らに対して右許可申請についての協力を請求しなかつたことも、ある程度無理からぬものがあり、いちがいにその権利の不行使を責めることはできない。他方、被控訴人側としては、売買代金三二〇万円のうち本登記引換分二〇万円を除いた三〇〇万円を既に受領しており、最近に至るまで折にふれて本件土地が控訴人のものであることを控訴人側あるいは第三者に対して積極的に認める言動をし、かつ、同土地の耕作をやめた後は、その所有名義人として固定資産税等を一応負担していたほかは、同土地に対する管理や占有なども全く行つていないものである。このような本件の事実関係を総合勘案すると、被控訴人らが控訴人に対し、前記許可申請協力請求権について消滅時効を援用し、実質的に本件土地の取戻しをはかることは、信義則に反し、権利の濫用として許されないものと解するのが相当である。

(中島恒 佐藤繁 塩谷雄)

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